程度の差はありますが、成人ではほとんどの人が歯周病にかかっていると言われています。歯周病の人の口の中には歯周病菌がウヨウヨ住み着いています。歯周病菌が歯を支えている骨をジワリジワリと溶かし続けているのです。このような口の中にインプラントを入れると、歯周病菌がインプラントを支えている骨をジワリジワリと溶かしていきます。これをインプラント周囲炎といいます。
歯ぎしりや噛みしめ(これも歯ぎしりの仲間です)は歯を支えている骨に破壊的な作用をもたらします。歯周病の人が歯ぎしりをすると歯周病菌による骨の破壊を著しく加速させます。このような人にインプラントを入れるとインプラント周囲炎が加速的に進行するでしょう。
鏡を見ながらカチカチと奥歯で噛んでみて下さい。すべての奥歯がしっかりと噛み合っています。次に噛み合わせたまま顎を前後左右に動かしてみて下さい。典型的な噛み合わせでは、犬歯より前の歯が噛み合って奥歯は離れます。奥歯に横からの力がかかるのを前歯が防いでくれているのです。これをアンテリアガイダンスといいます。歯は歯軸方向(歯の生えている方向)にかかる力には強く、横からの力(側方力といいます)には弱いのです。
もう一度鏡を見てカチカチと噛んでみて下さい。上の前歯だけは物を噛むときに歯軸方向ではなく横からの力(側方力)がかかっているのがお分かりでしょうか。上の前歯は歯にとって有害な力を宿命的に受けているのです。奥歯がしっかりと噛み合っている事によって、上の前歯に必要以上の側方力がかかるのを防いでいるのです。これをバーチカルストップといいます。歯周病で奥歯が動いていたり、何らかの原因で奥歯が抜けてしまったりするとバーチカルストップが得られなくなり、上の前歯に強い側方力がかかるようになり、前歯を失う大きな原因になります。
このように歯はすべての歯がお互いに守り合っていると言えるのです。歯が抜けて少なくなっているのに、残っている歯のムシ歯の治療だけをしても永くは持たないのです。奥歯が抜けてから長い間放置していた人は、顎の位置が本来の位置からずれてしまっていることもあります。気づかないうちに歯並びも乱れてきます。
今からインプラント治療を受けようとする時、口の中に上のような様々な問題を抱えている人が、ただ歯の無いところにインプラントを入れるだけの治療をしてもインプラントも自分の歯も永くは持たないでしょう。
インプラント治療に限らず、口の中の治療をする時はムシ歯や歯周病の治療をはじめ、噛み合わせの治療、顎の機能の治療などを総合的に行っていかなければ決して良い状態は得られないのです。もちろん、歯が抜けている事以外に特に問題が無い場合はインプラント治療だけを行う事になります。