歯周病と他の病気との関わり

歯周病と他の病気との関わり

全身疾患が歯周病に与える影響

歯周病の直接的原因は、歯周病原性細菌からなるプラーク(いわゆる歯垢)ですが、歯周病の発症や進行にはいろいろな要因が複雑に絡んでいることが知られています。
たとえばタバコと歯周病の関係もそうですが、タバコを吸わない人に比べ、喫煙者は2~8倍歯周病にかかりやすいと考えられています。
最近では、歯周病の発症・進行に関与する、遺伝子レベルでの研究も盛んに行われています。

1999年にまとめられた米国歯周病学会(AAP)の歯周疾患の新しい分類においても、慢性歯周炎(従来の成人性歯周炎)の定義の中に、「全身疾患により症状が修飾されることがある」と記載され、歯周病と全身疾患は密接な関係にあることが明記されています。

まずはじめに、歯周病の発症・進行に影響を及ぼす全身疾患について考察していきたいと思います。

歯周病は、歯周病原性細菌による感染症ですから、全身の抵抗力が弱くなった状態では、歯周病が発症・進行しやすくなることは容易に想像できます。

その一例として「糖尿病」があります。
糖尿病が、歯周病のリスク因子となる理由は、大きく二つあります。

一つは白血球の一種である好中球の機能低下により、感染しやすくなることです。
多くの細菌に対する抵抗力が低下するため、当然感染症としての側面をもつ歯周病にとっても糖尿病は重大なリスク因子と言えます。

もう一つは創傷治癒不全(傷の治りが悪くなること)がおこることです。

したがって、十分コントロールされていない糖尿病患者では、ルートプレーニングや外科処置を行う場合には慎重な術後管理が必要になります。

歯周病が全身の健康に及ぼす影響

歯科疾患が全身に影響を及ぼすことは、すでに20世紀初頭に歯性病巣感染説(focal infection)として提唱されてはいましたが、まだ科学的根拠は十分ではありませんでした。
しかし、近年では、全身疾患が歯周病の発症・進行に影響を及ぼすリスク因子となることが指摘されて、歯周病が全身の健康を脅かしている可能性も疫学的に示唆されるようになってきました。
それでは、どういった機序で歯周病が全身に影響を及ぼすのでしょうか。

ヒトの28本の歯が歯周病に侵され、すべての歯のまわりに深さ5ミリのポケットが形成されたと仮定すると、ポケット上皮の面積は約72平方センチメートルにもなります。

これは、大人の手のひらの面積とほぼ同じです。
つまり、これだけの面積の潰瘍(ただれ)がはぐきの中にあるということであり、こんな大きな範囲で生体と細菌がせめぎ合いをしているということなんです。

また、歯周病は 慢性炎症性疾患ですから、炎症歯周組織においては様々な炎症関連物質が持続的に産生されています。
その影響が歯周組織から全身にも波及すると考えると、歯周病が全身になんらかの影響を及ぼすことが簡単に想像できると思います。

歯周病が全身の健康に悪影響を及ぼす例

①心臓血管疾患

近年、疫学的研究により心臓血管疾患のリスク因子の一つとして、歯周病が注目されています。
これまでの研究結果によると、歯周病のあるヒトはないヒトに比べて、下記のようなことが示されています。

  1. 心臓血管疾患を、1.5~2.8倍発症しやすい。
  2. アテローム性動脈硬化症が、歯周炎と関連する。

歯周病が心臓血管疾患に影響を与えるメカニズムとしては、炎症歯周組織で産生されるIL-1,IL-6,TFN-α等の炎症性サイトカインが、血流にのって心臓や血管に移行し、血管内皮細胞やアテローム中のマクロファージを活性化することにより、心臓血管系の梗塞を引き起こすのではないかと考えられています。
また、実際アテローム部位からP.gingivalis等の歯周病原性細菌のDNAが検出されています。

②糖尿病

糖尿病は歯周病のリスク因子です。
逆に、近年では歯周病が糖尿病のリスク因子であることを示唆する報告もなされています。
これまでに、糖尿病の程度の指標であるヘモグロビンA1c(HbA1c]や血糖値が、歯周病治療を行うことにより低下したという報告や歯周病にかかっている糖尿病患者をモニターした結果、糖尿病の合併症である心筋梗塞、脳梗塞、高血圧などが重症の歯周病の人ほど多く発症したとの報告がなされています。

歯周病が糖尿病に影響を与えるメカニズムとして、TEN-αと呼ばれる炎症性サイトカインの関与が疑われています。
炎症性歯周組織から産生されるTFN-αが血流にのって細胞へ移行し、骨格筋細胞や脂肪細胞による糖の取りこみが阻害される、いわゆるインスリン抵抗性が悪化することにより糖尿病が悪化するのではないかと考えられています。

③低体重児出産

近年、歯周病にかかっている妊婦は、早産(妊娠37週未満)や低体重児(2,500g未満)を出産するリスクが高いことが報告されています。

低体重児出産のリスクは約7倍も高いことがしめされています。歯周病が低体重児出産のリスクを増大させるメカニズムの一つは、歯周組織の炎症に伴って産生される炎症性物質が何らかの機序で、子宮の収縮を誘発し早産や低体重児出産を引き起こすのではないかと推測されています。

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